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「往診?ふむ、ふむ」
「怪我人ができたのかね」
「誰かと思つたら――」
「ところがね、大石さんの銃は、あれはマネスターと云ひましたかね、あのマネスターは立派なんだけどなあ。そのわりにあたらないもんですね」
「いや、そのうち。――ぜひ御相談があるんですが。――そのうち、一度来ていたゞいて。いや、私の方から出かけませう。や、又――」
「さう。――いゝやうだ」
「だいぶ、様子が変りましたな」
「あの婆さん(家主のこと)自分の掘った温泉だから、意地をはって、ガタガタふるえながら、はいってる。絶え間なくタオルで身体をこすりながら、はいってる」
「いや、あれは私が勝手に頼んで来てもらつたんですからな、御心配はいりませんよ」
と、いきなり云つた。
傷は三箇所を縫つた。
「もう一人後から来るかもしれませんが、そしたらよろしく頼んます」
彼は今泉からドイツ兵の捕虜と聞いたとき、かつて若い単純な頭にはげしい印象を灼やきつけられた、ロシア兵達の驚くべき腕の長さ、のろい大まかな身振り、何とも解しがたい瞬時に大きく開かれたり又縮まつたりする碧い眼や唇の動き、――それらは今徳次の目の前に突然鮮明な記憶をよび起したのである。
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