このページについて
「小倉組の連中が来たちふぢやないかね。ほんとうかね」
「さつき着いたばかりの新聞で見たんだがね、――堀内将軍がいよいよ凱旋されるさうだ」
練吉は時々、「うむ、うむ」と呟き、房一の方をふりかへつては「ね?」と、同意を求めるやうに云つていた。
その時、道平がのつこりと診察室に上つて来た。やはり尻はしよりの下から真黒い両脚を円出まるだしにしたまゝで。房一が考へこんでいるのを見ると邪魔をしてはいけないとでも思つたらしく、そのまゝゆつくり診察室の中を見まはして、何か口のあたりをもぐもぐさせた。それから、医療器具棚に近づくと、そのうるんだはつきりした眼で熱心に中をのぞきこんだ。そして又、口のあたりをもぐもぐさせた。それはこんな風に云つているやうであつた。
「もう一人後から来るかもしれませんが、そしたらよろしく頼んます」
「もうそんなにおよろしいんですの?すつかり御無沙汰していました。ほんとうに!よくおいでになれましたわねえ」
「困つたもんだね」
「一つ着て見せたらどうです?高間さんにはきつと似合ひますよ」
道中は別に変ったこともなく、根津の主従は箱根の湯本、塔の沢を通り過ぎて、山の中のある温泉宿に草鞋わらじをぬいだ。その宿の名はわかっているが、今も引きつづいて立派に営業を継続しているから、ここには秘しておく。
さう云ひながら、盛子はゆつくりと喰べていた物がまだ口の中に残つているような無邪気な顔をした。
看護婦がそつと上つて来た。
「いや、これから往診に行くところだ」
と訊くと、遊び友達と河へ行つたといふ返事であつた。
- 山の中の素敵な温泉飛騨高山温泉の予約なら当サイト
- 清流流れる温泉四万温泉の予約なら当サイト
- 海際のハイセンスな宿鴨川温泉の予約なら当サイト
- 日本海の夕日をmini!皆生温泉の予約なら当サイトへどうぞ