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「それぢや、向ふの座敷へ行つて少し休みませうか」
徳次は指で真似をした。
と、大声で云ひ聞かせた。
「あの婆さん(家主のこと)自分の掘った温泉だから、意地をはって、ガタガタふるえながら、はいってる。絶え間なくタオルで身体をこすりながら、はいってる」
「おぢいさん、そんなに立つてばかりいないで腰をかけなさいよ」
「はあ、はあ」
「途中から帰つて来たんだよ」
と、呟き、房一に向つてしきりとうなづいていた。
「ゆうべは不思議な夢をみたよ。君たちも知っている通り、大地震の翌年に僕は箱根へ湯治に行って宿屋で怪しいことに出逢ったが、ゆうべはそれと同じ夢をみた。場所も同じく、すべてがその通りであったが、ただ変っているのは――僕が思い切ってその便所の戸をあけると、中には人間の首が転がっていた。首は一つで、男の首であった。」
徳次は房一が顔を洗ふ間傍に立つて眺めていた。それからふいに訊いた。
「やあ、しばらくで」
と、相手は慌ててその筒抜けな声を庫裡の居間に向けて放つた。
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