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「あゝ、さうだつた。なあんだ!」
房一はすかさずさう口にすると、低く鹿爪しかつめらしいお辞儀をした。どうも、これでは少し固苦しいかな、と自分の声を自分で聞きながら。彼はいくらか汗ばんでいるやうな気がした。慌あわてないで、さう自分に云つた。
と云ったそうだ。
風はすつかり途絶えていた。
「君達は一体何者だ!」
「こんなところで初対面のご挨拶をしようとは思ひがけなかつたですね。――いや、初対面といふわけでもないんですな」
坐につくとすぐ固苦しい挨拶をはじめた房一に向つて、その気重い調子を払ひのけでもするやうに、老医師の正文は口早やに云つた。
「うん、おれもこないだ通り合せたんだが、前を山支度の娘が寵をかついで歩いているんだな、するとやつぱり大声でからかつとつたよ」
それは初めて口に出す言葉だつた。
鍵屋の隠居神原直造は老来なほ矍鑠と云つた様子だつた。
「ふん」
「はあ、はあ」
「かういふ玩具おもちやのやうなものを出して、年甲斐もないことでした」
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