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「どうも遅くなりまして――」
「あら、ほんとうに沢山とれたんですね」
「あら!」
温泉は街道から幾折れかの石段で溪ぎわまで下りて行かなければならなかった。街道もそこまでは乗合自動車がやって来た。溪もそこまでは――というとすこし比較が可笑おかしくなるが――鮎が上って来た。そしてその乗合自動車のやって来る起点は、ちょうどまたこの溪の下流のK川が半町ほどの幅になって流れているこの半島の入口の温泉地なのだった。
が、自分の家の前あたりまで来たとき、かなり先きの通りに四つ五つの人影が黒くかたまつて立つているのを見た。何をしているのか判らない。房一はそのまゝ家の中に入つた。
「鮒?――それあ喰べるとも」
と、盛子が傍から又さつきのをかしさを思ひ出したらしく、そつと注意した。
「鬼倉ちふのはきさまかと云ふんだよ。あんまり、この近所の者をいためてもらひますまい」
と云ふ疳高かんだかい大きな声があたりに響きわたつて房一を面喰せた。
宿の者はこういっただけで、その以上の説明を加えなかった。伊助の報告もそれで終った。
「いつから――?」
「つい今日まで挨拶にも行かずじまひになつてね、どうも済まなかつた」
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