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わきから又誰かが冷かした。
「ふん。何でもありやせんよ。大方、腹でも痛かつたんだらう」
そんな風におぼえていてくれるとは思ひがけなかつた。
「よろしい。承知した」
初めて胎児が動いたとき、何といふ快い驚きだつたらう、何といふ不思議な、又微妙きはまるものだつたらう。その生命に独特な閃くやうな動き、内側からかすかにお腹の皮をつゝぱるやうな気配がし、やがてふいにびくびくつとしたり、ひよつととまつたかと思ふと又はじめて、今度は一層力強く永くぐい、ぐい、ぐいとしたりする、そのうごめきはすでに完全な手足あるものとしての形を感じさせ、もう今から盛子に何かを要求し、甘えかゝつているかのやうであつた。
さう云ひすてて、大きな音を立てて下駄をひきずりながら立去つたのだ。
だが、やつぱり戻らないで、しきりとこつちを見ながら行く。
座敷へ案内されて、まず自分の居どころが決まると、携帯の荷物をかたづけて、型のごとくに入浴する。そこで一息ついた後、宿の女中にむかって両隣の客はどんな人々であるかを訊きく。病人であるか、女づれであるか、子供がいるかを詮議した上で、両隣へ一応の挨拶にゆく。
「何しに来た?」
房一がそこへ出るのと、さつきの二人が表から入つて来るのと同時だつた。
「ですが、一体財産譲渡つて云ふのはいつのことなんです、大分前ぢやないですか」
「さうなんです。ちやうどいゝ案配でした」
云はずと知れたことだ、といふやうに徳次はそのきよろりとした眼を上げて小莫迦こばかにした風に小谷を眺めた。大きい麦藁帽子を被つているので、小谷のやさしい顔立ちはひどく女らしく見えた。
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