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    思はず時間がたつてしまつた。房一は腰を上げた。前脚の上に顎をのせて長々と寝そべつていた犬は急に起き上つて身ぶるひした。徳次は、房一の往診の時間を大分遅らせたのにやつと気づいた。

    「よし。――さうしとかう」

    印袢纏の背の高い男がその時、半シャツの男に向つて目くばせをした。

    「うん、何かア」

    「ひどい傷だねえ!」

    「うん、あの程度だと別に影響はないんだらう」

    「ねえ、高間さん。まあ、こつちへお寄んなさい」

    「わたしやア――」

    その時、又あの鈍い重量のある音が下流の方からどよめいて来た。それは前のよりもはるかに大きく、つゞけさまだつた。

    と云つた。

    「誰かと思つたよ」

    熱心になっていた「な」の字さんは多少失望したらしい顔をした。

    温泉の浴場は溪ぎわから厚い石とセメントの壁で高く囲まれていた。これは豪雨のときに氾濫する虞おそれの多い溪の水からこの温泉を守る防壁で、片側はその壁、片側は崖の壁で、その上に人々が衣服を脱いだり一服したりする三十畳敷くらいの木造建築がとりつけてあった。そしてこれが村の人達の共同の所有になっているセコノタキ温泉なのだった。

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