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    そこには一人の男が顔を手拭で蔽はれたまゝ、一種普通でない様子で寝かされていた。手拭の下からは赤黒く汚れた額の一部と、土埃にまみれた頭髪とがはみ出していた。その傍には、やはり印袢纏着の真黒い顔の男がついて、ぽかんとして戸外を眺めていた。

    徳次は房一が顔を洗ふ間傍に立つて眺めていた。それからふいに訊いた。

    二人は自転車をひきずつたまゝ近よつた。

    「きさまか、鬼倉ちふのは」

    が、その時、彼はすぐ傍でさつきから盛子がひろげたり畳んだりしている大きな紅い紙の袋みたいなものに目をとめた。

    真黒い顔の男が傍によつて訊いた。

    犬は横へとびこんだ。だが、匂も嗅がず、草の中から頭を出して、房一の方をしきりと眺めながら同じ方向に歩いている。

    徳次はすつかり感心したとも、又その反対ともとれる云ひ方だつた。

    この町に一体火事なんて、いつあつたらう。たしか、三年前に一度、そして去年の春さきに小火ぼやが一度、それも藁火が離納屋に燃え移つただけのことで、それだのに殆ど町中がいや近在からも山を越して人が集り、提灯ちやうちんが集り、大変な騒ぎだつた。めつたにないどころではない、他のことは忘れても、この殆ど珍重すべき火事は、そのあつた年も、場所も火元の蒼白な顔も、ありありと覚えこんでしまはれるのだつた。

    道平が口をうごかせるまでには随分手まどつた。

    練吉は小学校時分のことを思ひ出したのかふいにをかしさうに笑ひ声を立てた。

    「なあ、ジョン!」

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