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    「さあね、そいつは今のところ何とも判らんでせうな。何しろこの前に手をつけたのは十年前だつたでせうかね、その時の礦石のかけらも残つちやいませんよ」

    と、全然ここの温泉を軽蔑しきっていたそうで、婆さんが絶え間なくタオルで全身摩擦しながら意地ずくでつかっている温泉とは何度ぐらいだろうと興にかられたが、調査もせずに引越した。

    練吉は小学校時分のことを思ひ出したのかふいにをかしさうに笑ひ声を立てた。

    「あれですかね、やつぱり自分で歩かなくちやいけませんかね」

    「いためた?」

    すると、道平の半ばひきつゝた表情の中には、又あの悦ばしさが、かうして歩いて来たことを人に見られるといふ満足が、ゆつくりと、何だか紙のずれるやうな工合に上つて行つた。

    「さやうで御座りますか。お忙しいところを御苦労さまで」

    「いゝ恰好で!」

    と、盛子が傍から又さつきのをかしさを思ひ出したらしく、そつと注意した。

    威勢よくやつて、相手にされると腰を落ちつけて、人の好さがまる出しになつて、大声で喋りまくる。と云つても、彼自身には何の話の種もないので、多くは人の相槌を打つたり、今他人から聞いた通りのことを彼の声音で何か別の話のやうに見せながら話すだけなのである。

    のむことなら!といふ風に、練吉は切れ目をぱちぱちさせた。

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