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「いためた?」
今さつきまで誰もいなかつた通りの、ずつと先きの方から黒い人影が歩いて来るのである。袴をはいて小さな風呂敷包か何かを抱へている、そのやはり背高な、直立したまま急ぎ足に歩く恰好はまぎれもない町役場の書記の今泉だつた。
と、徳次は叮寧にならうとして一種奇妙な言葉づかひになりながら、
「はあ――ふむ、うちへもかね」
房一は前の方を向いたまゝだつた。
見たことのない顔だつた。患者なら玄関から来る筈だ。
「どこか悪いですかな」
「それあ、あんた」
その次にふり向いたとき、果はたせるかな、殆ど目の前の対岸から、はつきりと彼の方を向き、ためらひながら何か云ひたげにしているやうな相手の顔を見た。それは徳次の幼友達であり、彼の兄貴株でもあれば大将株でもあつた、そして今は彼なんかには傍へもよりつけないやうに感じられるあの「医師高間房一氏」であつた。
「いや、それが――」
次に記すのは、ほんとうの怪談らしい話である。
「おい」と盛子を呼ぶ声がした。
半ば感心し、半ば疑はしさうに、彼は指を自分の眼に向けてみた。
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