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    「や、これは。高間さんですか。お久しぶりで」――「お忙しいですか」

    「お松は「い」の字と言う酒屋に嫁よめに行ったです。」

    今頃になつて、男はさう訊き、盛子がそれに答へる前に、ひとりでうなづいていた。

    「だから大事に大事に歩きましたよ。石ころの上を踏んだら一ぺんですからね。いつもこんなに大事に下駄をはいたらさぞ永持ちすることでせうが――」

    ところが、何の気なしにいつものきよろんとした目つきでその方を眺めていた徳次の顔には、その時不意打を喰つたやうな表情が浮かんだ。彼は緊張して眺め、さつと顔を紅らめ、力りきんだやうになり、それから急に下こゞみになつて水洗ひの仕事にかゝつたが、明かに上の空だつた。彼は始終落ちつきなく対岸の路を眺めやつた。そしてやはり、紅らんだり力んだりした。

    「どういたしまして。お茶位さし上げんと」

    「はゝゝ、でもカワラケにはちがひない、それがかうひよつとね」

    「お前、往診に出てた?」

    不幸なことに房一の予測はあたつた。いや、それ以下とも云へた。

    本堂と庫裡とをつなぐ板敷の間で、ずば抜けて背のひよろ長い、顔も劣らずに馬面うまづらの、真白な反そつ歯ぱのすぐ目につく男が突立つていた。

    云はずと知れたことだ、といふやうに徳次はそのきよろりとした眼を上げて小莫迦こばかにした風に小谷を眺めた。大きい麦藁帽子を被つているので、小谷のやさしい顔立ちはひどく女らしく見えた。

    小谷は不安げに呟いた。

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