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「あの山に田地を注ぎこんで裸になつたのは三人、わしも知つとる」
練吉はまだ眼鏡を手にしたまゝ、不自然に大きく見える眼を極端にぱちぱちさせ、ぢつと房一の顔をのぞきこんでいた。彼は今さつき、突然の房一の来訪でよび起されたのである。
とにかく、それは遠い向ふで起つていることだつた。対岸の火事を見物するやうなものだつた。
「便所に化物が出たそうです。」
「ホリョ?」
「それで、――どうかね?」
ふいに冷気が盛子の咽喉もとから胸の中へしみこんだ。その時、夢の中でよくつかめないながらも何か急に閃ひらめき過ぎる考へのやうに、これが結婚といふものか、これが仕合せといふものか、といふ思ひがどこからともなくやつて来た。しかもそれは考へた瞬間にさつと身をひるがへして去り、だが印象だけは強くのこる、あの微妙な閃きだつた。
「さうだ。大したことはない」
――「それでは、わしの方からお礼を云はなきあならんのです。どうぞ、よろしく願ひますわ」
房一はまだ考へ深さうにしていた。
徳次は気が抜けたやうに、口のあたりをもごもごさせるきりだつた。
と、房一は訊いた。
「なんですか、御挨拶まはりですかね、それはどうも御苦労さまですなあ。――まあ、お上り下さい」
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