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    「便所に化物が出たそうです。」

    何かしら、すつ飛んでしまつた。白い光るものも、鬼倉の隈取くまどりのやうに荒い皺の走つた顔も、それからあの、もやもやした怒りも。そして、ぼんやりとして次のやうな話がとり交はされるのを聞いていた。

    「それに――」

    房一は笑つていた。

    思はず口に出かゝつたが、慌ててのみこんだ。彼の頭には今やすべてが明かになつた。土工仲間の刃傷沙汰だつた。その息づまるやうな情景が頭に閃ひらめいた。

    「痛むか?」

    それが今日では、一泊はおろか、日帰りでも悠々と箱根や熱海に遊んで来ることが出来るようになったのであるから、鉄道省その他の宣伝と相待あいまって、そこらへ浴客が続々吸収せらるるのも無理はない。それと同時に、浴客の心持も旅館の設備なども全く昔とは変ってしまった。

    「今晩、寄せてもらつてもえゝですか」

    「まあ、とにかく、御迷惑かもしれないが、一度御足労を願ひたいと思つてね」

    「お松は「い」の字と言う酒屋に嫁よめに行ったです。」

    「まあ、いゝでせう。せつかくぢやありませんか」――

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