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男はじろじろと房一を見ていた。
「早く早くつたつて、もうお支度はちやんとできてますわ。あなたが遅くかへつて来といて――」
「さうですつてね」
別に会ふ気がなかつたから、と云ふ代りに、
と、云つた。
「馬子まごにも衣裳つて云ふから――」と云つたほどである。
徳次がまだ若僧で父親の手伝ひをしていた時分には、帰るとすぐ夜通し積荷をして、明け方又下る、といふことも珍しくはなかつたが、今では荷出が一週間に一度あるかないかである。だから、三四軒あつた同業もすつかり足を洗つて、徳次が一人のこつているわけだが、彼は目先の利く他の連中のやうに先の心配なんかはちつともしなかつた。荷がない時には筏師になつた。流木を筏に組んで下るあれである。それもない時には河漁をやつた。
今泉は面喰つてこれも徳次の眼の中をのぞきこんだ。二人の間には恐しく判りにくいものが突然はさまつたやうに思はれた。
「いや、危険はまづない見込だ。だが、何と云つたらいゝか――」
「やつぱり徳さんが多いね」
「いつから――?」
男は眼を閉ぢたまゝだつた。
根津はだまって答えなかった。その翌日、彼は城外で戦死した。
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