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「たゞし、預かるだけだよ。この分が残つている間はいくら後から来ても貰はんよ。いゝかね」
と、大声で訊いた。
そこへは、案内も乞はずに、小谷吾郎が気がるに裏口から入つて来た。
房一はむつつりとしたまゝ答へた。
「何んの。面倒だからこのまゝ行かう」
房一は目を上げて注意深く道平を見た。
それは背広姿に、遠目にもはつきりと判る緑色のソフトをかぶつた男であつた。
出て来たのは紅い手をした看護婦だつた。台所の方へ行つて何やらまごまごし、しばらく立つてから、
控へ目に坐つて、注いだ茶碗を盆の上に揃へると、
二階の部屋だつたので、障子を開けてみたが、空はどこも真暗らで所々にうすく星が光つていた。その静かな黒い拡がりがかへつて不気味だつた。すぐ下の通りではどの家も表の戸を開け放つたまゝ道路に出ていたので、屋内からの明りが方々から路面に流れ、立つて空を見上げている人達の半身を照していた。黒い人頭がざわざわと右に行き左に行きしていた。所々の家の切れたあたりは驚くほど暗かつた。鐘はまだ鳴つていた。それは今、さうはげしくはなかつた。だが、冴えてはつきりと、一所だけで鳴つていた。多分、左手のずつと先きあたりらしかつた。
房一は鬼倉に向つて叮重ていちように云つた。
「おい、お茶を入れてくれ」
「神尾司令官閣下と同列なんだよ。宇品から東京駅着。それから直ちに参内上奏されたんだよ。どうも、すばらしいね。目に見えるやうだね」
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