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    「あゝ、えらかつたなあ」

    「よろしい。承知した」

    男の顔は泥と血で汚れ、かすり傷が一面についていた。顎の所にかなりひどい裂傷があり、血糊が固くこびりついていた。どこか打撲傷をうけたらしく、一見したところ気息奄々きそくえんえんとしていたが、房一が手拭をとり除いたときに、男はかすかに眼を開けて房一の顔を見た。

    急いであたりさはりのない返事をすると、今泉はもう隣りの人の方を向いて挨拶をした。

    「それあきまつてる、猟銃だもの」

    「お松は「い」の字と言う酒屋に嫁よめに行ったです。」

    練吉は房一の腕にさはつて、囁くやうに云つた。近眼鏡の下から切れの長い練吉の眼が一種こつそりした親密な表情をのぞかせていた。突嗟とつさに房一はその囁くやうな調子や眼つきから、練吉が何のことを云つているのかを了解した。

    「いや、それあ貰つたのが分家だから、相手はやつぱり分家の喜作さんさね」

    房一は酒が不得手だつた。ところが、相沢も家業に似合はず呑めない口と見えて、二人の間には手もつけないまゝで生温くなつた銚子が二三本も置かれていた。こゝでも房一はもう会ふ人ごとに聞かれてうんざりしている医者となるまでの経歴を、相沢の問ひに答へてぽつりぽつり話さねばならなかつた。

    「ほう、さうか。毎年あるのかね。そいぢや、これから度々見られるわけだな」

    「――?」

    練吉は軽く頭を下げながら、相手の房一がいきなり直立不動のやうに足をそろへたのを見た。

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