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    「それあ、いかん。こんなに多くはいらんよ」

    それは一尺近い美事な鮒だつた。だが、三匹きりなかつた。いかにも少いと徳次は路々思つて来た。さう思ふと、この鮒が本当よりもずつとちつぽけにさへ見えて来たのである。

    と云ふ疳高かんだかい大きな声があたりに響きわたつて房一を面喰せた。

    と、小谷は人差指と中指を二本突き出して見せて、

    と訊くと、遊び友達と河へ行つたといふ返事であつた。

    「いや、たいしたことはないだらう、と思ふ。鼻血を出したからね。軽いとは思ふんだがどうも老としよりだから経過しだいでは副次症を起さんともかぎらんしね。そのへんのことが僕にはよく判らないんだ」

    「さうです。――どうかなさつたかね」

    「閉口でしたな」

    「さうですか、さうですか。それは、いや、ごていねいなことで」

    「わたしやア――」

    「往診?ふむ、ふむ」

    「うむ」

    二人は今船で流れの上を渡つていた。綱を手繰たぐる徳次のわきには房一が自転車のハンドルをつかまへて立つていた。全体に銀白色の金属でつくられたこの自転車はいかにも新しげだつた。それさへ、徳次の目には医療器具か何かのやうに特別な機械に見えた。

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