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    「おや、いつのまにそこに来てなさつたかね。お茶ですか、上げますとも」

    そこに、房一は、酒のために紅くなつてはいるが、そして、まだ額のあたりに筋張つた色が立つてはいるが、稍やゝ前こゞみになつた半白の頭を見た。それは河原町の人などには見られぬ線の粗あらさとどぎつさこそあつたが、想像したよりもはるかに老人だつた。

    「ほんとうに火事があつたのかい」

    と、練吉はわざとらしく顔をしかめてみせた。

    「いや、あれは私が勝手に頼んで来てもらつたんですからな、御心配はいりませんよ」

    「いるかね。いたら、高間さんが御挨拶に見えたからと――」

    「ほゝう!」

    「こんなところで初対面のご挨拶をしようとは思ひがけなかつたですね。――いや、初対面といふわけでもないんですな」

    「いゝ恰好で!」

    老父に注意されるまでもなく、房一は河原町で医師として立つて行く上の先々の困難は十分心得ているつもりだつた。どんなに房一が成功者と目されたところで、一方では彼が河場の一介の百姓息子にすぎなかつたことを河原町の人達は忘れていはしなかつた。その上、河原町には古くから根を張つた大石医院といふものがあつた。

    「いや、もう御免蒙つて脱いで行かう」

    「――?」

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