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「ハッパさね」
房一の魚籠びくをのぞいて、盛子はびつくりしたやうに叫んだ。
――「やあ、おいでなさい。わたし相沢です」
と、練吉は房一の方をふりむいた。
「脚気の方は?」
と、突然房一の肩を押へて云つた者がある。いつのまにか、練吉が傍に来ていたのだ。彼は酒の酔ひもさめたと見えて、興奮し、そのために稍強きつい、輪郭のはつきりした顔立ちになつて、一心に土手の方を注視していた。
と、小谷は目を丸くした。欲しさうだつた。すると、逸早く、
「あの訴訟はどうなつたのかね」
云ふなり又思ひ出したやうに玄関へ上つて行つた。
それが今日では、一泊はおろか、日帰りでも悠々と箱根や熱海に遊んで来ることが出来るようになったのであるから、鉄道省その他の宣伝と相待あいまって、そこらへ浴客が続々吸収せらるるのも無理はない。それと同時に、浴客の心持も旅館の設備なども全く昔とは変ってしまった。
「なにしろこんな狭い田舎ぢやから、何事もねつうやる。それをやらんと後がうるさい。自然評判を落すといふことも起るかな」
練吉は永い間黙つていた。それから、いかにもいやいやな調子で、
と、房一はもう一度感心した。
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