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    と、盛子は大げさに滑稽な顔をしてみせた。

    盛子は急に思ひ出して不服さうな声を出した。だが、それは房一に向つて甘えながら不服を云つているやうな調子を含んでいた。

    「おーい、火事はどこい行つたあ」こんな風に、口々に喚いていた。

    今泉にはやつと徳次の考へていることが判つたので、熱心に説明した。

    練吉は眠気から覚めたやうに、

    さう云ひかけた時だつた。さつきから口々に何か叫び、又しづまりかへつていた下方で突然又あの板切れの井桁積みがくづれる音がした。その異様な、ばりばりといふ音は何か鋭い速い広い浪のやうな不安をひろげた。それは偶然の不吉な暗示を与へたやうなものだつた。誰かが、ずつと先きの方で溝をとび越え、木柵にとりついた。すると、又何人かが土手を駆け登つた。めりめりと木柵を引倒す音が立つた。と思ふと、房一は突嗟とつさに身をひるがへして土手づたひにその方へ走つていた。彼は一二度傾斜で滑り、殆ど転んだかと見えたが、間もなく身体を起した時にはもうその場所に立ちはだかつていた。

    「いや、そこまで確かなことにはしませんでしたが」

    「ごめん下さい」

    「これを御大典のお祝ひ日に着るんですつて」

    宿の者はこういっただけで、その以上の説明を加えなかった。伊助の報告もそれで終った。

    「なんですか、御挨拶まはりですかね、それはどうも御苦労さまですなあ。――まあ、お上り下さい」

    「いや、まあ。――後の分もありますよつて、黙つて預つといて下さい」

    「先づそのうちには、町内の様子もいろいろお解りになることでせう。これでなかなか面倒なこともありましてな」

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