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「君に云つとくが、何んだぜ、小倉組の者なんかにかゝり合ひをつけちやいかんぜ」
彼が冠をとると、円味のある顎肉には紐の痕が紅く残つていた。
小谷は不安げに呟いた。
房一の竿に最初のやつが掛つた。
それであるから、こういう所へ来て私たちの最も困ったのは、机のないことであった。宿に頼んで何か机をかしてくれというと、大抵の家では迷惑そうな顔をする。やがて女中が運んでくるのは、物置の隅からでも引きずり出して来たような古机で、抽斗ひきだしの毀こわれているのがある、脚の折れかかっているのがあるという始末。読むにも書くにも実に不便不愉快であるが、仕方がないから先ずそれで我慢するのほかはない。したがって、筆や硯にも碌ろくなものはない。それでも型ばかりの硯箱を違い棚に置いてある家はいいが、その都度に女中に頼んで硯箱を借りるような家もある。その用心のために、古風の矢立などを持参してゆく人もあった。わたしなども小さい硯や墨や筆をたずさえて行った。もちろん、万年筆などはない時代である。
「さうだつてねえ」
「小倉組といふと、下の工事場の方ですな」
「往診?ふむ、ふむ」
富田は房一に声をかけて彼のために席を明けながら、つづけて
相手はしばらく黙つていた。だが、場所が高いのと、柵の中にいるためか、落ちついて答へた。
はるか下流の方で、鈍いが、重味のある大きな音が響いたのだ。それは、はじめぼおーんといふ風に聞え、つゞいてドカンドカンと来た。
と、房一が声をかけた。
と、房一は帽子を手にやつた。
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