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房一も人に揉まれて立つていたが、構内の落ちつきを見ると、近よつて事情を確かめようとした。すると、その時、彼よりも先きに誰かがやはりさうしようと思つたらしく、構内へ上る土手に足をかけようとしたはずみに、そこは溝だつたと見え、たちまち安定を失つて水の中に落ちた。男はすぐに土手に匍ひ上つたものの、下半身づぶ濡れになつたらしく、しきりと裾をしぼつているやうだつたが、又滑つて尻餅をつき、土手にへばりついたのが、ちやうどその上方に立つた高張りの明りでぼんやりと、だが、蛙か何かがばたついているやうに見えた。その時、高張りの下で木柵に凭もたれて様子を眺めていた長身らしい人影が、突然大きな笑ひ声を立てた。すると、火事騒ぎで興奮していたらしい下の男は、土手の途中に立ち上ると、
と、房一が声をかけた。
喜作と別れてから、房一は歩きにくい足もとの円石に目を落して何となく考へこんだ風に歩いて行つた。
と、房一は机の上に虫の卵の形を書いてみせた。
六
口ごもつて、
徳次は、その云ひ慣れない「往診」といふ言葉を口の中で物をころがすときのやうに珍しげに云つて見た。何か特別な響きがあつた。その時、急に彼は房一が医者だといふことを思ひ出していた。
「便所に化物が出たそうです。」
「さあ。どうぞ、どうぞ」
稍意地の悪い、きびしい調子であつた。
「ねえ、高間さん。まあ、こつちへお寄んなさい」
「いや、挨拶まはりですよ。どうぞよろしく」
体が、と云ふより声が引つこむと、代りにそこに姿を現したのは盛子だつた。すると、うす暗い台所の板敷の上に眩しいやうな、うすい葉洩れ日のやうな気配けはいが立つた。
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