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「ほう、往診かね」
「これからどちらへ?」
云ひながら、腹帯の中からまるで金入れとは思へない位に大きな蟇口をとり出すと、十円札を何枚かつかんでいた。そして、ろくに返事も聞かないで房一に押しつけた。
「さうなんですよ。ですが、よく考へたもんだと思ひましたね、足もとから鳥が立つ、といふでせう、――あれとそつくりにね、かうひよいとカワラケがとび出すんですよ」
やがて、鈍のろい、呆ぼけたやうな返事をしながら、房一の湯上りでよけい赤紅あかく輝く顔がのぞいた。彼はゆつくりと兵児帯をまきつけていた。だが、その様子とはおよそ反対な強きつい、きらりと光る目で、盛子のうしろに、半泣きになつた、取乱した青い顔で立つている徳次の妻、ときを見た。
と、彼は恐しく手まどつて答へた。
「なにぶん山の中でございますから、折々にこんなことがございます。」
「大きに。ありがたうござんす。よろしう頼んます」
と、房一は帽子を手にやつた。
「あんたも、おめでたいさうで」
「眼が潰つぶれちまふ――ねえ、先生」
「化物が出た……」と、根津は笑った。「どんな物が出た。」
「脚気の方は?」
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