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    膿盆だの鋏、脱脂綿の袋などがまだ散らかつたまゝになつているのを片づけはじめた。

    徳次は急に目くばせをした。

    「さうだね。まさか医者の家に古障子の玄関といふわけにもいくまいね」

    「うむ、わしか」

    「これはどこに置きますかね、この漬物桶は。――はい、はい。どつこいしよ、と」

    関西訛なまりの特長のある呼び方で、彼はちよつと頭を下げた。それはお辞儀といふよりも、何か強談を持ちかけるといつた工合の、一種の身構への感じられる強きつい調子だつた。

    「おれは!――」

    「せんせい!」

    だが、その間にも土手の押問答はつゞけられた。

    「それに、永い間この土地をはなれていたもんですから、土地の事情にもすつかり疎うとくなりましてね、これは一つ、どうしても今後こちらのお力にすがらないことには立つていけないと思つている次第ですが――」

    今泉の読んだのは予定記事だつた。だが、早のみこみと、簡単な熱中家が造作もなくつくり上げる本当らしさ、それによつてなほ熱中するといふあの癖とによつて、彼はそれをすでにあつたことのやうに話しこんだ。若し、他にまだ話したくてたまらないことがなかつたら、この報告はもつとくはしく、もつと飛躍しただらう。

    「さうだつてねえ」

    と、房一は机の上に虫の卵の形を書いてみせた。

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