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    ゆつくりと時間をかけて、楽しみ楽しみ喰べた。それは喰物のおいしさよりも、かうやつて小娘のやうな真似をするのがおいしかつたのだつた。

    さう声に出してみた。そして犬の方をふりかへつた。犬は彼の方を信頼にみちた眼で見上げ、しなやかな尾を振つた。

    「どこの訴訟だ。なに鍵屋、うん、相沢か」

    徳次は慌てた。

    と、房一の近くで云ふ声が聞えた。今泉らしかつた。つづいて同じ声が

    傍にいた赭あから顔の老人が低い声で云つた。

    それは盛子だつた。きりつとした割烹着の姿は彼女の伸びやかな身体の特長をよく現はしていた。

    彼はもう少しで最も善い友人に向ふやうに考へごとを打ち明けるところだつた。

    すさまじい怒気のやうなものが、房一のあらゆる部分に燃え立ち、彼のいかついむくれ上つた肩は二倍も大きくなつて見えた。それに圧倒されたものか、物音は止んで、房一が何かしきりと云つているのが聞えたが、間もなく二三人がごそごそ土手を降りて行つた。

    彼女はその表情を少しもくづさずにすつと引き下つたが、間もなく帰ると、

    「それで、何かね。ドイツ兵は徒歩てくで通るんかね」

    徳次は明かに房一にくれようと思つていたらしかつた。で、間が悪さうにそこに立ちはだかつたまゝ、あのきよろりとした目でしきりに練吉と房一を見くらべていた。

    「さうです、小倉組の方ですな」

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