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    「えゝ、まだですが――何か御用?」

    「やあ、来てますね」

    いくらか浮うはつ調子に口の軽くなつた小谷にひきかへ、今夜の練吉は何となく元気がなかつた。細かいながらに絣かすりの目のはつきりした大島の上下揃ひを稍ぞんざいに着こみ、吃り気味に話をする彼には、だらりとした様子と同時に、どこか家風の結果といふやうな一脈の潔癖さが混交していた。

    「ふむ、ふむ」

    房一は満足げに、かへつて来た犬の頭をかるくたゝいた。

    船体を洗ひ終つて、これから雑具にかゝらうとしたときだつた。彼はふと対岸に目をやつた。物音がしたわけでもなければ、気配を感じたのでもない。しかるに、そこの路の曲り角には、まるで符合したやうにその時きらきら光る真新しい自転車に乗つた男が現れたところだつた。

    自動車が動き出した時、練吉は唇のはしをびりびりさせ、あの切れ目の顔に何かしら水をかけられたやうな表情になりながら、

    むかしからおれとこの人とは仲よしだつた――それは押しかくすことのできない悦ばしさだつた。

    ――「やあ、おいでなさい。わたし相沢です」

    その住居の端々はしばしにまで行きわたつている潔癖さは、同時に大石正文夫妻の年来の好み、その生活の信条といつた風なものをも漠然と現はしていた。

    それが堂本だつた。

    と、呟き、房一に向つてしきりとうなづいていた。

    「今日からお隣へ参りましたから、よろしく願います。」

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