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    「なに、切れてるつて?」

    浴漕は中で二つに仕切られていた。それは一方が村の人の共同湯に、一方がこの温泉の旅館の客がはいりに来る客湯になっていたためで、村の人達の湯が広く何十人もはいれるのに反して、客湯はごく狭くそのかわり白いタイルが張ってあったりした。村の人達の湯にはまた溪ぎわへ出る拱門型に刳くった出口がその厚い壁の横側にあいていて、湯に漬って眺めていると、そのアーチ型の空間を眼の高さにたかまって白い瀬のたぎりが見え、溪ぎわから差し出ている楓かえでの枝が見え、ときには弾丸のように擦過して行く川烏かわうの姿が見えた。

    「ありがたう。――あ、大きいね」

    「ふん。何でもありやせんよ。大方、腹でも痛かつたんだらう」

    「あれですかね、やつぱり自分で歩かなくちやいけませんかね」

    老父の道平が卒倒した今はちやうど房一の忙しい時期だつた。と云ふのは、彼の患者の大部分を占めている農夫達は農閑期に入ると、それまでがまんをしていたために急に病気になつたり、ぶり返したりするのであつた。道平はここ三四日の間が危険期だつた。房一は殆どつき切りで、間には何度も家の方へ来る患者の診察にも帰らねばならなかつた。

    「それあ、さうだらうなあ。なんしろ広い海のこつた!――ねえ、君」

    「いや、――わしはそんなこたあ嫌ひだ」

    「うん。青島陥落の、ほら、旅団長閣下だよ」

    が、登り切つた所で、ふりかへつて盛子を待つた。そして、何となく様子のちがつたゆつくりさで登つて来る盛子の、上うは目になつた、意味ありげに笑つている顔を見た。

    と、練吉は急いで云つた。

    男は語尾に力を入れて、房一の眼の中をのぞきこんだ。

    「どうも遅くなりまして――」

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