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「ふうん、潰れるだらうな」
しかし家族たちはヌルすぎるといって、入浴しなかった。そこで温泉加熱の装置を施したが、薪をたき、釜の中をグルグルまいたパイプに水道を通し、湯となって湯槽へ流れこむ仕掛けで、入浴している方は温泉気分であるが、外では薪をたいているのだ。温泉場で釜の火をたくとは味気ない話だ。
盛子は妊娠していた。
焼香が済むと別室へ案内された。だが、こゝでも各自に大体自分の坐らせられる席を心得ていながら、すぐには通らうとしなかつた。で、神原直造が一々その人の前に行つてそれぞれの席へ順に案内した。正面の床柱の前には大石正文が猫背のまゝ顎を突き出した恰好で坐つた。その次は上町の醤油屋の主人だつた。正文と等位置の左手へかけては堂本が坐つて居り、大石練吉がその隣にいた。二三人置いて庄谷の顔が見えた。その辺りが上座だつた。
そこには、房一の紅黒い、怒張した顔があつた。いつのまにやつて来たのだらう、徳次はぎゆつと片手で押へつけられたまゝだつた。そして、房一の怒声を聞いた。
その二人の働いている所にはまだ形こそはつきりとはしていないが、内部ではもうこゝだけに見られる家庭生活の気分といふものが生れて居て、その特殊な雰囲気がひつきりなしに流れて、徐々にこの空洞のやうな乾いた家の中にその匂ひを浸みこませて行くやうに感じられた。
いきなり忙せはしなく立上ると庫裡へ走つて行つて、間も無く茶器を揃へた盆を自分で持ち運んで来た。長い胴を折り曲げるやうな危つかしい調子で房一の前に置くと、
「まだ?ふん!よせ、よせ。阿呆らしい」
「どうも、済んまへんでした」
房一は話を変へた。
この時ふと、房一は、何故こんなに相沢が立入つて訊くのか、といふ疑ひを持つた。だが知り合ふとすぐまるで親類か何かのやうに世話を焼きたがる河原町の人達の癖は、房一も家の造作のときにも、その後にも一再ならず見て知つていた。
傷は三箇所を縫つた。
房一の態度が穏かだつたので、相手はいくらか落ちついた。
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