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房一がそこへ出るのと、さつきの二人が表から入つて来るのと同時だつた。
温泉の浴場は溪ぎわから厚い石とセメントの壁で高く囲まれていた。これは豪雨のときに氾濫する虞おそれの多い溪の水からこの温泉を守る防壁で、片側はその壁、片側は崖の壁で、その上に人々が衣服を脱いだり一服したりする三十畳敷くらいの木造建築がとりつけてあった。そしてこれが村の人達の共同の所有になっているセコノタキ温泉なのだった。
富田はすぐ又自分の方に話をひきとつた。
と云つたまゝ、盛子は房一の顔を見てくすりとした。そして、ばさばさ音をたてて大きくひろげてみせた。それは神官の着るやうな袍はうだの指貫さしぬきに模したものだつた。おまけに、ボール紙で造つた黒い冠、笏しやくの形をした板切れ、同じく木製の珍妙な沓くつだのいふ品々が揃つていた。
「ほう、往診かね」
「なあに、後から来るのんはほんの擦かすり傷みたいなもんやから、大事ありません。――時にせんせい、何んぼ差上げたらえゝでせう?」
見たことのない顔だつた。患者なら玄関から来る筈だ。
と、道平は明かに盛子に気兼ねをしているらしかつた。
「いや」と、喜作は相変らずきつぱりと、煩うるさがりもせず答へた。
「あれですかね、やつぱり自分で歩かなくちやいけませんかね」
「あの人はつまりこんな風な人なんだわ。こんな風に――」
看護婦がそつと上つて来た。
「はい、若先生に代りに行つてもらへとおつしやいました」
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