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    「いや、危険はまづない見込だ。だが、何と云つたらいゝか――」

    「なあ、先生」

    徳次は慌てた。

    「うむ、――え?」

    が、一隊がふたゝび町中にさしかゝつて来ると、汗と埃でよごれ、ゆるんだ表情の彼等に見られるありありとした疲労は、待ちうけていた見物人達にたちまち同情と心配をひき起した。今や、この一隊は紙衣の神官でもなければ行列でもなく、見物人達の良人をつとであり、父親であり、主人であつた。草履の代りに下駄が、下駄の代りに草履がはき代へさせられ、手拭を出し、熱い番茶を持つて来、中には自宅の縁側に悠々と一休みして行く者さへあつた。

    そして、これと全く同じ活気が、あの燃え残りの蝋燭の発する佗びしい、だが、ゆらめくやうな活気が今夜の法事で主人役をつとめている神原直造にもあつた。

    と、房一の近くで云ふ声が聞えた。今泉らしかつた。つづいて同じ声が

    と、房一はほつとした面持になつて云つた。

    と、彼は思ひ出したやうに房一の顔をのぞきこんだ。それは、いつか道平を診察しての帰り路で、「あれだね、君は見かけによらない親思ひなんだね!」と叫んだ時とそつくりな感嘆をまじへた親しさといつた色が閃いていた。

    と、加藤巡査はくり返した。

    日々は平凡に単調に過ぎて行つた。

    「別に惜しいほどのことではありませんよ」つづけて、ふいに調子を変へると、

    道平は顎髯を剃り落してしまつていた。

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