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    しばらく黙つていた後で、房一は

    「いや、どうも。――この男は私のごく懇意な者ですが、酒癖がわるいので、まあ今夜のところは大目に見てやつて下さい」

    これがこの小さな字である。

    これらの、過去一年あまりの中に或ひはひよつこりとした凸起をなし、或ひはまはりをぼかしたまゝ遠のいているさまざまな出来事のうちで、たつた一つのことが抜け出し、それは一向に過ぎたことにならないで依然としてつゞき、絶えず現在として変化し、房一に或る影響と関心を与へているものがあつた。たつた一つ――それは盛子の妊娠であつた。

    「わしは反対だ!」

    「うむ、わしか」

    二人は岸に着いた。

    その患者といふ言葉を、まだ云ひ慣れないために特別な発音をしながら、盛子はあわてて房一に声をかけた。

    「すまんでしたな、長話をして」

    「三人どころぢやない、五人も十人もある」

    「あれだね、君は見かけによらない――親思ひなんだね!」

    「一体どうしたというのだ。」

    「笹井?――御隠居さんが云つたのかい」

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