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    「お松は「い」の字と言う酒屋に嫁よめに行ったです。」

    房一はきつぱり云つた。男は、これは話が判る、といふやうな顔をした。それに押つかぶせるやうに、

    「いためた?」

    「何かの、それは」

    「やあ。先日はどうも」

    「あの人はつまりこんな風な人なんだわ。こんな風に――」

    「これはどこに置きますかね、この漬物桶は。――はい、はい。どつこいしよ、と」

    貰った方でもそのままには済まされないから、返礼のしるしとして自分が携帯の菓子類を贈る。携帯品のない場合には、その土地の羊羹ようかんか煎餅せんべいのたぐいを買って贈る。それが初対面の時ばかりでなく、日を経ていよいよ懇意になるにしたがって、時々に鮓すしや果物などの遣やり取りをすることもある。

    「今、あんたの便をしらべてみたがね」

    「なにしろ、迷ふんだな」

    と、相沢は口ごもつた。

    半ば感心し、半ば疑はしさうに、彼は指を自分の眼に向けてみた。

    「まだなかなかでせう。永いこつてすよ」

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