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彼が冠をとると、円味のある顎肉には紐の痕が紅く残つていた。
「いや、――わしはそんなこたあ嫌ひだ」
徳次は自分のことのやうに熱心に路順を考へた。
「おーい。渡つてもいゝかね」
「それで、何かね。ドイツ兵は徒歩てくで通るんかね」
「さあ、どうぞ。ずつとお通り下さい」
富田は房一に声をかけて彼のために席を明けながら、つづけて
彼は先だつて房一から全快祝ひに贈られたセルの上下を、仕立下したばかりのものを着こんでいた。夏からふた月あまり寝こんだとは云へ、日焼けの浸みこんだ黒い皮膚の色は容易にとれないと見えて、今もそれが真新しいセルの、明い地色と際立つた対照をなしていた。
「うちへもかね」と訊いて置きながら、その自家うちへ寄つて行けとも云はない。房一はふと庄谷の眼尻が人並より下つて、そこが特長のある皺になつているのを認めた。その皺の奥から時々庄谷の眼がこちらの顔を撫でるやうに見ていた。さつきから何度も微笑したやうに見えたのは、この皺のせいかもしれない。
風呂にゆつくりとつかつた。
この時さう云ひながら座に入つて来た者があつた。それは今泉だつた。
尿には蛋白質はなかつた。排便を顕微鏡でのぞいてみた。いる、いる。蛔虫に十二指腸虫の卵がうんとこさ見えた。
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