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    生返事をしてそのまゝ登つて行く。

    「やっぱり半之丞の子だったですな。瓜うり二つと言っても好よかったですから。」

    「よし!」

    小谷は相手にされなかつたやうに感じてちよつと顔をしかめた。が、しばらくすると又声をかけた。

    さう呟きながら、下手を眺めた。

    「――?」

    「理窟があるやうな無いやうな話でね。こゝの隠居は相手にならなかつたから、たうとう訴訟といふ所まで来たんだらうが、何しろ相沢の先代とこゝの隠居とは兄弟だしね、――どんな理窟があるにしてもあまり賞めた事ぢやないね」

    さう云ひかけた時だつた。さつきから口々に何か叫び、又しづまりかへつていた下方で突然又あの板切れの井桁積みがくづれる音がした。その異様な、ばりばりといふ音は何か鋭い速い広い浪のやうな不安をひろげた。それは偶然の不吉な暗示を与へたやうなものだつた。誰かが、ずつと先きの方で溝をとび越え、木柵にとりついた。すると、又何人かが土手を駆け登つた。めりめりと木柵を引倒す音が立つた。と思ふと、房一は突嗟とつさに身をひるがへして土手づたひにその方へ走つていた。彼は一二度傾斜で滑り、殆ど転んだかと見えたが、間もなく身体を起した時にはもうその場所に立ちはだかつていた。

    「往診?ふむ、ふむ」

    と、いきなり突きを喰はされた練吉は、神経的にさつと青ざめながら、反問した。

    「何でもいゝから早くしてくれ。路をまちがへて大廻りしちやつたんだ」

    盛子は上から見、下から見しながら、

    房一は叫んだ。犬は房一の顔を見上げ、二三間走り、後がへりをし、それから急に葉の落ちた灌木の中にとびこんで行つた。がさがさやつて、ずつと先の路に出た。きよとんとし、時々匂ひを嗅いだ。

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