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    だが、今日は徳次の方でめづらしく今泉の近づいて来るのを待つていた。といふのは、今泉の方でも遠くから徳次を見つけるや否や、声にこそ出さなかつたが、何か話すことがありさうな様子で、急ぎ足になつたからである。

    老父に注意されるまでもなく、房一は河原町で医師として立つて行く上の先々の困難は十分心得ているつもりだつた。どんなに房一が成功者と目されたところで、一方では彼が河場の一介の百姓息子にすぎなかつたことを河原町の人達は忘れていはしなかつた。その上、河原町には古くから根を張つた大石医院といふものがあつた。

    と、房一が進み出た。

    「どこの訴訟だ。なに鍵屋、うん、相沢か」

    房一は近い往診の帰りに河の石畳みの土手をつたつて歩いていると、広い河原を前にし土手沿ひの小高い畑地の端に立つて、特長のあるごつごつした頭骨を露あらはにし、両手を帯の前にはさんだまゝ、殆ど反そり身に立つたまゝあたりを眺めている男を見た。

    と、練吉は房一の方をふりむいた。

    「やあ、来てますね」

    「はあ――ふむ、うちへもかね」

    「どうも、やつぱりねえ。調子が悪い」

    「よし、それでは預つとかう」

    「それは、小規模な演習だからして居らん」

    「それぢや、向ふの座敷へ行つて少し休みませうか」

    「袴はそこですよ。足袋を先きにはくのよ」

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