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    「今日はえらい早いお帰りだね」

    「うむ、さうか。玄関のことか」

    「ほう、さうか。毎年あるのかね。そいぢや、これから度々見られるわけだな」

    練吉の額は今青いと云ふより磁器のやうな冴えた白さに変つていた。目瞬きはぴつたりととまり、線を引いたやうな切れ目が深く長く、宛あたかも部厚い眼鏡そのものに入つたヒビ割れのやうに見えた。そして、

    「さうですね。さつきからどうもさうらしいと思つていたんですが、失礼しました」

    「どうもこれぢや――」

    二三度声をかけたが返事がなかつた。すると植込みの向ふの診察所の入口に白い服を着た看護婦の紅らんだ顔がのぞいて、すぐに引きこんだ。と思ふと、どんな風に廻つたのかしれないが、同じ顔が思ひがけなく今度はひよいと突きあたりの壁の横から現はれた。

    恐らく、房一も他の場合にはこれと似たりよつたりの動作をやるにちがひない、たゞ道平に向ふとこんなに易々とできないのだ。

    次に記すのは、ほんとうの怪談らしい話である。

    が、材木置場の混乱にもかゝはらず、そこから一段と小高くなつている出張所の構内では、やはり高張提灯がかゝげられ、焚火が燃え、人が立つて歩いていたが、をかしい位にひつそりし、柵のところにかたまつた人影は下方の混乱を黙つて見物しているとしか見えなかつた。

    「それは惜しかつたですな。私などとちがつて学資の心配はなかつたでせうし」

    「坊は?」

    「さうだ、君はあの時の射撃大会に出たさうだね」

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