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「あの婆さん(家主のこと)自分の掘った温泉だから、意地をはって、ガタガタふるえながら、はいってる。絶え間なくタオルで身体をこすりながら、はいってる」
――「それでは、わしの方からお礼を云はなきあならんのです。どうぞ、よろしく願ひますわ」
「挨拶みたやうなことはもうしたかの」
と、ゆつくりはじめた。
「え、何だつて、徒歩てくで通るかつて?」
と、道平は明かに盛子に気兼ねをしているらしかつた。
それから、房一は歩きながら漠然とした沈思に落ちた。
「はあ、どうも」
「おい」と盛子を呼ぶ声がした。
河原町の評判では、徳次は怠け者といふことになつていた。恐らくそれは、河から上つた徳次が水をはなれた河童のやうになすところを知らぬげなぽかんとした様子に起因していたのだらう。彼は怠け者ではない。彼にはきつと、自分の気に向いた仕事にだけ熱中する子供染みた無邪気さが他の人よりはよけいに残つていたのだ。その証拠には、河に下り立つてからの彼の動作には、別人のやうにきびきびした手順のよさと云つた風なものがあり、間もなくわき目もふらずに働きはじめたのを見ても判る。冬近い時候なのに、額には汗が流れていた。彼は時間のたつのを忘れていた。
と、今やうやく気づいた盛子が叫び声をあげた。
庄谷は自分よりは高い相手から見下されるのを避けるやうに少し遠のくと、房一の改まつた服装を胸から下にかけてぢろぢろと見た。
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