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    と、その稍落ちつきのない女らしい黒瞳くろめがちな眼を道平に向けた。

    「な」の字さんもわたしも足を止めながら、思わず窓の中を覗のぞきこみました。その青年が片頬かたほおに手をやったなり、ペンが何かを動かしている姿は妙に我々には嬉しかったのです。しかしどうも世の中はうっかり感心も出来ません、二三歩先に立った宿の主人は眼鏡めがね越しに我々を振り返ると、いつか薄笑いを浮かべているのです。

    房一は手足を洗ふと、簡単に診察着をひつかけて表へ廻つた。

    「化物が出た……」と、根津は笑った。「どんな物が出た。」

    「フム」

    「うん、もうさつき帰つたよ」

    「それあ、もう、掘つても掘つても屑みたいなものしか出ないつて云ふんだがね。まあ、天領の時分に良いところはそつくり掘り上げてしまつたんだらうね。その山をまだ見所があるつて云ふんだから、あてになるやうなならんやうな話だあね」

    と、誰かが大声で叫んだ。

    「いや、それが――」

    ほんとにさうだ、忙しい身分なんだ、どうしてそこに気がつかなかつたらう、――と、徳次は瞬間本気にさう考へ、自分のはしたなさを悔くやんでいた。

    だが、房一よりも堂本の方がもつと慌てていた。彼はいきなりそこに痩せた身体をしやちこ張らせてかしこまると、

    「うん、あの程度だと別に影響はないんだらう」

    「こゝの消防演習をやつたのだ。そんなに騒ぐことはない」

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