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    「じゃそのお松まつと言う女はどうしたんです?」

    「うん、おれもこないだ通り合せたんだが、前を山支度の娘が寵をかついで歩いているんだな、するとやつぱり大声でからかつとつたよ」

    口ごもつて、

    「あ、さう云へば」

    今泉にはやつと徳次の考へていることが判つたので、熱心に説明した。

    しばらく黙つていた後で、房一は

    「君は昨日その九州から来た連中を赤山へ案内して行つたちふぢやないか」

    「やっぱり半之丞の子だったですな。瓜うり二つと言っても好よかったですから。」

    「いや」と、喜作は相変らずきつぱりと、煩うるさがりもせず答へた。

    聞えないといふしるしに、房一は手を振つて見せた。それが盛子にも解りにくいらしく、しばらくためらひ気味に立つていたが、やがて河原へ下る段を降りはじめた。

    それに、茂子がこんな風にひよいと家を出て実家へ帰つたまゝ、十日も二十目ももどつて来ないなんてことは、別に珍らしいことでもなかつた。たゞ、この半年ばかりは落ちついていたのである。もう慣れつこになつている。そのうち又舞ひもどつて来るだらう。来なければ来ないで、それでもちつとも差支へはない。要するに、どうでもよかつた。居ない間が気楽といふものだつた。

    「梨地から水神淵へ降りる路ができたからね、そこへ出れば、帰りはずつと楽だ」

    「や、皆さんどうも遅くなりまして――」

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