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    房一はその黒い顔に微笑をうかべながら今泉を見た。

    「ふむ」

    と、彼は恐しく手まどつて答へた。

    「うん」

    ところが、何の気なしにいつものきよろんとした目つきでその方を眺めていた徳次の顔には、その時不意打を喰つたやうな表情が浮かんだ。彼は緊張して眺め、さつと顔を紅らめ、力りきんだやうになり、それから急に下こゞみになつて水洗ひの仕事にかゝつたが、明かに上の空だつた。彼は始終落ちつきなく対岸の路を眺めやつた。そしてやはり、紅らんだり力んだりした。

    房一の老父、道平が二三日前に倒れたのだつた。そして、今、練吉に対診を求めて来たのである。

    「さう、知つてる、知つてる」

    練吉と房一は、川沿ひの路を、肩を並べて自転車を走らせていた。

    それが堂本だつた。

    と訊いた。

    房一はさつきから自然と聞いてはいたが、事は初耳だつた。

    「わたしの方でも、もう一度こちらから上つて、お目にかかりたいと思つていたところなんですよ。――今日はこんな所で、じつさいいゝ案配でした」

    庄谷の細い眼が又微笑した。だが、その瞬間に現はれたほんの少しの人なつこさ、古い記憶のほのめきは、すぐ又大急ぎでどこかへ隠れこんで行くやうに見えた。

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