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    徳次は口のあたりをもごもごさせた。

    「さうだ、君はあの時の射撃大会に出たさうだね」

    「あゝ、さうか。あゝ、さうか」

    房一には間もなくそれが雑貨店の主人である庄谷だと判つた。だが、庄谷の方では房一が二三間の所に近づいてもまだぢろぢろ眺めていた。

    「誰でも主人が出なくてはいけないきめでせう。すると、千光寺さんはどういふことになりますかね。坊主が神主の恰好をするのもをかしなもんぢやありませんかね!」

    と、その稍落ちつきのない女らしい黒瞳くろめがちな眼を道平に向けた。

    「いや、高間さんは大漁ですがね。わたしの方はさつぱり駄目ですよ」

    盛子は笑ひながら顔を紅らめた。

    鬼倉は一瞬、相手を地着きのごろか何かと思つたらしい、一種の殺気をひらめかした。

    と、相手は慌ててその筒抜けな声を庫裡の居間に向けて放つた。

    「なに、訴訟?」

    と、練吉は、彼等のわきにさつきから立つていた今泉に向つて、揶揄やゆするやうに訊いた。どういふものか、今泉の紙衣裳はちつとも痛んでいなかつた。これといふ皺もついていなかつたし、木沓さへ完全であつた。冠をつけ、まだ笏を心持構へた恰好で、こんなに皆が疲れ切つた様子をしているにかゝはらず、今泉だけはその稍冷い感じのする四角な顎を生き生きとさせ、あのつまみ立てたやうな鼻髭さへ床屋から出て来たばかりのやうだつた。

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