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生返事をしてそのまゝ登つて行く。
もともと口下手ではあつたが、まだ舌がもつれる風で、一口ごとに息をついて云つた。
見たことのない顔だつた。患者なら玄関から来る筈だ。
それが堂本だつた。
いくらか浮うはつ調子に口の軽くなつた小谷にひきかへ、今夜の練吉は何となく元気がなかつた。細かいながらに絣かすりの目のはつきりした大島の上下揃ひを稍ぞんざいに着こみ、吃り気味に話をする彼には、だらりとした様子と同時に、どこか家風の結果といふやうな一脈の潔癖さが混交していた。
紛まがふことなく、それは神原喜作だつた。
「それは惜しかつたですな。私などとちがつて学資の心配はなかつたでせうし」
「いや、高間さんは大漁ですがね。わたしの方はさつぱり駄目ですよ」
その塗りの色の落ちついた外まはりの築地塀、よく拭きこまれた廊下、塵一つ落ちていない部屋々々、渋い雅致のある床の置物だの掛軸、これらすべての上に現れているどこか神経質でさへあるよい趣味と堅固さ――さういふ外見にかかはらず、大石医院では年来をかしなごたごたが繰り返されていた。
伊東は市ではあるが、熱海とは比較にならないほど、ひなびている。けれども温泉場であるから、道路には広告塔があって休むことなく喋りまくり唄いまくっているし、旅館からは絶え間なくラジオががなりたてて、ヘタクソなピアノもきこえる。先方も商売であるから、静かにしろ、と云うわけにはいかない。
「うん、寄りがあるからな、あんたはうちに帰つとんなさい」
と、云つた。
徳次はしばらく考へていた。
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