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    「あれだね、君は見かけによらない――親思ひなんだね!」

    と、相沢は口ごもつた。

    「はゝあ」

    「眼が潰つぶれちまふ――ねえ、先生」

    「いや、たいしたことはないだらう、と思ふ。鼻血を出したからね。軽いとは思ふんだがどうも老としよりだから経過しだいでは副次症を起さんともかぎらんしね。そのへんのことが僕にはよく判らないんだ」

    「そんなこと位は造作もない。おれにとつては小指の先の芸当だ」

    「小倉組といふと、下の工事場の方ですな」

    彼は、医師検定試験といふものが実際は医専を出ることなんかよりはるかにむつかしいものだと知つてはいたが、しかし、正規な教室で得るところのものは難易にかゝはらない何か別の正統さといつたやうなもの、より科学的な、――つまり、医者らしさだといふことを、心のどこかで信じていた。それが、房一には欠けている、といふ風に思はれた。

    「どうもこれぢや――」

    さう云ひたげに、練吉は近眼鏡の奥で切れの長い目をぱちぱちさせ、ちよつとあたりを見まはした。一種気楽げな表情がたちまちその顔に浮かんだ。

    「開業日はいつかの」

    小谷は不安げに呟いた。

    「よし!」

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