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云ひ終ると、直造は叮重ていちように頭を下げた。
「まあ、とにかく、御迷惑かもしれないが、一度御足労を願ひたいと思つてね」
「どうしても学問をやるというて聞きませんだつたが。――それで神戸高商を出ましてな住友へ入つて結構やつとりましたが、三年前にぽつくり行つてしまひましたよ。病気ですか?結核性脳膜炎とか云ひましてな、十日ぐらいで、あつさりしたもんでした」
と云つたまゝ、盛子は房一の顔を見てくすりとした。そして、ばさばさ音をたてて大きくひろげてみせた。それは神官の着るやうな袍はうだの指貫さしぬきに模したものだつた。おまけに、ボール紙で造つた黒い冠、笏しやくの形をした板切れ、同じく木製の珍妙な沓くつだのいふ品々が揃つていた。
控へ目に坐つて、注いだ茶碗を盆の上に揃へると、
「そんなこと位は造作もない。おれにとつては小指の先の芸当だ」
「やあ」
道平は房一の後についてこの何もない座敷に入つて来たが、やはりあの子供じみたもの珍しさの色は消えなかつた。房一のすゝめるまゝに今度も腰を下さうとして、ちよつと尻はしよりに手をかけたが、そのまゝ止めて、ごく目立たない仕草で真新しい畳の上を避けながら、彼には坐り心地のいゝと見えた縁側で胡坐あぐらをかいた。
と、練吉はわざとらしく顔をしかめてみせた。
彼はもう少しで最も善い友人に向ふやうに考へごとを打ち明けるところだつた。
「なんだつて、脳溢血?――そいつあ大変だねえ」
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