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「このまゝでは責任者を出さなくてはならなくなる。手落ちは向ふにあるとしてもですよ」
彼は男の顔を蔽つている手拭をとりのけながら云つた。
「はゝゝ、でもカワラケにはちがひない、それがかうひよつとね」
「さあ、一つ拝見しませう」
座敷へ案内されて、まず自分の居どころが決まると、携帯の荷物をかたづけて、型のごとくに入浴する。そこで一息ついた後、宿の女中にむかって両隣の客はどんな人々であるかを訊きく。病人であるか、女づれであるか、子供がいるかを詮議した上で、両隣へ一応の挨拶にゆく。
「すると、何ですか、十年契約といふやうなことにでもなすつたんですか」
「いや、まあ。――後の分もありますよつて、黙つて預つといて下さい」
「ホリョ?」
房一は苦笑した。
「どこだ、どこだ。もう消えたのか」
馬喰達はそつと肱をつゝき合つた。徳次は「鬼倉」といふ言葉を聞いた。そのとき、彼のきよろりとした、酔つた眼の中には、突然いかにも心外さうな、又跳ね上るやうな色が動いた。彼はちよつとぐらりとし、目をつむり、それからぐつと男の方を挑いどむやうに眺めた。馬喰達は小声で、出よう、と云つた。が、徳次はきかなかつた。もう一度大きく上半身をぐらりとさせ、大声で、
母家の方には父親の正文がいるのだらうが、ひる寝でもしているのか物音がなかつた。練吉は井戸端へ出て身体を拭くと、居間になつている診察所の二階へ上つて来た。その途中で、看護婦に自転車の鞄を外して、中にある処方の薬をこしらへて置けと云ひつけた。そして、さつき配達されたばかりの前日の新聞をつかむと、腹ばひになつて読みはじめた。
「かりに、おれが真正面から反抗的に出て、それがために住みにくくなつたとしても、同じことだ」
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