貴方の見ているドメインは

ドメイン www.co8nvertible.info

このページについて

    「このまゝでは責任者を出さなくてはならなくなる。手落ちは向ふにあるとしてもですよ」

    彼は男の顔を蔽つている手拭をとりのけながら云つた。

    「はゝゝ、でもカワラケにはちがひない、それがかうひよつとね」

    「さあ、一つ拝見しませう」

    座敷へ案内されて、まず自分の居どころが決まると、携帯の荷物をかたづけて、型のごとくに入浴する。そこで一息ついた後、宿の女中にむかって両隣の客はどんな人々であるかを訊きく。病人であるか、女づれであるか、子供がいるかを詮議した上で、両隣へ一応の挨拶にゆく。

    「すると、何ですか、十年契約といふやうなことにでもなすつたんですか」

    「いや、まあ。――後の分もありますよつて、黙つて預つといて下さい」

    「ホリョ?」

    房一は苦笑した。

    「どこだ、どこだ。もう消えたのか」

    馬喰達はそつと肱をつゝき合つた。徳次は「鬼倉」といふ言葉を聞いた。そのとき、彼のきよろりとした、酔つた眼の中には、突然いかにも心外さうな、又跳ね上るやうな色が動いた。彼はちよつとぐらりとし、目をつむり、それからぐつと男の方を挑いどむやうに眺めた。馬喰達は小声で、出よう、と云つた。が、徳次はきかなかつた。もう一度大きく上半身をぐらりとさせ、大声で、

    母家の方には父親の正文がいるのだらうが、ひる寝でもしているのか物音がなかつた。練吉は井戸端へ出て身体を拭くと、居間になつている診察所の二階へ上つて来た。その途中で、看護婦に自転車の鞄を外して、中にある処方の薬をこしらへて置けと云ひつけた。そして、さつき配達されたばかりの前日の新聞をつかむと、腹ばひになつて読みはじめた。

    「かりに、おれが真正面から反抗的に出て、それがために住みにくくなつたとしても、同じことだ」

1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 | 32 | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 | 39 | 40