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    「どうも御苦労さま、暑いところを」

    そこへは、案内も乞はずに、小谷吾郎が気がるに裏口から入つて来た。

    房一はにやりとした。水神淵と云へばこゝらで一番のギギウの棲家だつた。彼等はよく出かけたものだつた。岩の上に腹ばひになつて巣の前に糸を垂らす。すると、水底では今針から落したばかりの奴が懲りもせずに餌に食ひつく、水気で腹の下の岩は生暖いが背中は日でぢりぢりして来る。急に水にとびこんで身体を冷やす、それから又足を逆さに今にも落ちこみさうな恰好で岩の上に腹ばひになる。――

    半ば感心し、半ば疑はしさうに、彼は指を自分の眼に向けてみた。

    正文はその傍に近づきながら、他の用事で来たついでのやうに云つた。

    それから、房一は歩きながら漠然とした沈思に落ちた。

    かまわないから開けてみろというので、男二、三人が協力して無理に第一の戸をこじ開けると、内には誰もいなかった。第二の戸をあけた結果も同様であった。その騒ぎを聞きつけて、他の客もあつまって来た。宿の者も出て来た。

    人間の頭の廻転などというものは、その人の性質に応じて方法を講じることができるものだ。絶対のものではないし、神秘的なものでもない。苦しかったら、まず、方法を考えることだ。精神などといって、非物質的な張本にまつりあげるのは、精神を増長させるばかりで、物質的に加工しうる限度をひろげるように工夫すると、相当に細工のきくシロモノだということが分ってくる。

    「それで、何かね。ドイツ兵は徒歩てくで通るんかね」

    と、今泉は一寸声をひそめた。

    「まさか!」

    来客の間にほつと寛くつろいだ空気が流れ、直造が袴をさばいて立ち上らうとした時だつた。

    「よし。今行く」

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