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「さうですか、さうですか。それは、いや、ごていねいなことで」
「何でも大分前からこゝの御隠居にかけ合つていたさうぢやありませんか」
「おい」と盛子を呼ぶ声がした。
思はず口に出かゝつたが、慌ててのみこんだ。彼の頭には今やすべてが明かになつた。土工仲間の刃傷沙汰だつた。その息づまるやうな情景が頭に閃ひらめいた。
「さうなんですよ。ですが、よく考へたもんだと思ひましたね、足もとから鳥が立つ、といふでせう、――あれとそつくりにね、かうひよいとカワラケがとび出すんですよ」
「何だらう?」
「何だらう、山師を煽おだてて又一儲けしようてんだらう」
「あなたは、多分――」
私にとっては、三十八度から四十度ぐらいが最も快適な入浴であることを確認したが、冬は湯上りの寒さに抗する必要があるので、多少汗ばむのを我慢して、四十一二度の温泉の湯につかる。伊東市でこれ以上チッポケな湯殿はなかろうと思われるぐらい、洗い場もないほどのところだが、私にはこれ以上の広さも必要ではない。ただ釜たきをする人たちが気の毒であった。
「さやうでござりますか」
「さあ、知らん」
房一は目を上げて何か訊きたさうにした。それを押へるやうに、
「まあ、生れ故郷ですから」
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