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――房一がさういふことを耳にしたのはごく最近である。しかし、いづれにしても房一には直接関係のないことだつた。
それは房一がこれまでに漠然と想像していた練吉とはかなりにちがふものだつた。以前見かけた練吉の学生服姿、その良家の子弟らしいつんとした近づき難さは、どこかにのこつていたが、或る柔い、善良さが今の練吉からは感じられた。
「何だらう、山師を煽おだてて又一儲けしようてんだらう」
「さうなんですよ。まあだ帰らないの」
「あんたの犬かね」
庄谷はあの冷笑するやうな白眼で、物好に訊きたがる人に答へた。
と云つたまゝ、もの珍らしげに、しばらく眺めていた。それから、相手にその意味が判るやうに微笑をし、目くばせをしながら、
近づきながら、何となくほの紅くなつて、中声で叫んだ。そして、房一の傍にいる小谷と徳次を認め、小腰をかゞめた。括くゝられてふくらんだ袖口からは気持のいゝ白い腕が露はれていた。
「これはどこに置きますかね、この漬物桶は。――はい、はい。どつこいしよ、と」
「ねえ、高間さん。どうもこの追鮎は背中に掛り傷があるんで元気がないですよ」
このポインタアの雑種は、房一の往診にはどこへでもついて来た。いゝ路づれだつた。
「さやうでござりますか」
房一は無意識に微笑しながらその眼を迎へた。正文はそこに、医者といふよりはまだ世間慣れのしない弁護士のやうな男が、土饅頭を思はせるやうな円まつちい顔を一種恭々うやうやしげな面持でかしこまつているのを、その厚いふくれた唇が不器用な微笑を浮べているのを見た。それは何となく可笑をかしみのあるものだつた。
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