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    「ふむ、さうすると――」

    読経がはじまつた。皆話をやめてその方を向いて坐り直した。

    「ふむ。悧巧者だな、お前は」

    「血圧は少し下つたしね」

    「あんまり、ぢつとしとつてもな、身体が生なまに、なるもんぢやから」

    さう云ひながらぽんと軽く下腹をたゝいた盛子の巧みな、しなのある手つきが目に浮かんだ。それは、そこだけ切つてとつたやうな鮮かさで残つていた。

    「なにぶん山の中でございますから、折々にこんなことがございます。」

    このどこの誰とも判らない相手を満更知らぬでもないらしい様子を見せながら、房一は手早く書きこむと、

    「今日はえらい早いお帰りだね」

    それ以来、逗留客は奥の客便所へゆくことを嫌って、宿の者の便所へ通うことにしたが、根津は血気盛りといい、かつは武士という身分の手前、自分だけは相変らず奥の便所へ通っていると、それから二日目の晩にまたもやその戸が開かなくなった。

    「よし。――さうしとかう」

    心持照れ臭さげにしながらも、盛子は快活などこか家庭的な確しつかりさといつた風なものを現して、この一日造りの漁師達を眺めた。

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